はじめに
今から15年以上前のこと。親御さんがプロの英語通訳をされている家で、中学生~高校生の生徒に英語と数学を教えていたことがありました。
そんなお宅で英語を教えるのは大変居心地が悪かったのですが、家から最寄り駅まで少し距離があったので、授業後はいつも車で送ってもらっていました。帰りの車中でいろいろな世間話をしたのですが、その親御さんは父親(生徒から見ると祖父にあたる方)の仕事の都合で、小学校低学年時に英語力ゼロの状態でアメリカに渡ったそうです。
現地の英語基礎クラスでまず徹底的にたたき込まれたのが「自動詞(vi)」と「他動詞(vt)の区別だったそうで、その話は今でも強烈に印象に残っています。
英語は動詞が命
英語を学ぶ者によっていろいろな意見や考え方があると思いますが、英文は動詞を中心にして成立していると私は考えています。日本語と比べると圧倒的に能動態の「~する」が多い言語ですし、自動詞と他動詞を明確に区別するところでも、動詞が果たす役割の重要性が際立っています。予備校の講師の中には、英語の長文を読むときはまず英語から探せと受験生にアドバイスする先生もいるそうです。
五文型も自動詞と他動詞に二分される
英語の文は例外もありますが、基本的に自動詞による構造SV(C)と、他動詞による構造SVOに二分されます。この構造をもう少し細分化し5つに分けたのが、かの有名な五文型です。
私の生徒を見ていても意外と気づいていないのですが、第1文型SVと第2文型SVCは自動詞からなる文、第3文型SVOと第4文型SVOOと第5文型SVOCは全て他動詞からなる文です。2010年頃まで大学受験生のバイブルと言われていた中原道喜先生の『基礎英文法問題精講』(旺文社)は、一番最初の章が文型に当てられていました。実は最初の章こそが英文法を学ぶ上で一番ハードルが高いのですが、多くの読者は文型の章を飛ばして第2章から読み始めていました。今考えると、当時の受験生は本当にもったいないことをしていたものだと思います。
最近はシェアがだいぶ落ちているようで、大学受験生で文法を学びたい場合は、『ポラリス』『Next Stage』『Vintage』を使うケースが多いようです。センター試験から共通テストに移行してから文法問題の大問が消滅し、ただでさえ文法軽視の姿勢が強まっています。私の生徒を見ていても、知っている英単語の意味をつなぎ合わせてパッチワークの日本語訳を書いてくる子が非常に多くなりました。
長文の中に下線部が引かれてあって、「その部分を和訳せよ」という問題は、必ずそこに文法や語法、構文の仕掛けがあるものです。作問したり採点する人も最近の受験生が文法や構文読解を苦手にしていることは当然わきまえており、フィーリングによるなんとなく訳では高得点がとれないようになっています。みんなが真面目にやらなくなった今だからこそ、文法や構文の知識・理解力をきちんと学ぶ意味があるというものです。
英語構文の定番参考書
英語構文を基礎から学びたい人には、『基礎英文解釈の技術100』『英文解釈の技術100』(いずれも桐原書店)がお勧めです。私はこれまで『基礎英文問題精項』(旺文社)を授業や課題で好んで使ってきたのですが、大幅改訂を機に桑原先生の『100』シリーズに切り替えました。中原先生バージョンの『基礎英文問題精講』は名文が多く、今でも読み返したくなることが多いほどです。ただ、「人類全般」の意味でmanやmenが使われているなど、現代英語からは乖離してしまっている表現が多くなり、さすがの私も毎回生徒に説明する手間が面倒になってきました。
標問シリーズは大人向けである
旺文社の「問題精講シリーズ」には基礎だけでなく標準問題精講もあり、こちらは数学と同様、大変難解なことで有名です。私も受験生時代は結局英語の「標準問題精講」シリーズに手を出すことはありませんでした。しかし、今ならある程度使いこなすことができるのではないかという思いから、1933年以来のロングセラーであり原の英標の通り名でも知られる『英文標準問題精講』やその姉妹版『英文法標準問題精講』『和英標準問題精講』も一応本棚に揃えてはいます。積ん読にならぬよう、死ぬまでに必ず一周はしておきたい英語問題集ですね。
京大英文読解対策の鉄板参考書2冊
京都大学のように、旧来型の入試問題をかたくなに出題し続けている大学を志望する受験生であれば、ぜひ通読をお勧めしたいのが、小倉弘『英語難構文のトリセツ』です。また、同じ出版社からは『京大入試に学ぶ 英語難構文の真髄』という京大入試に特化した対策本も出ています。この2冊は京大受験生には福音ともいうべき参考書で、遅くとも夏休みあたりからぜひ押さえておきたいです。
英語が大切な試験の出題科目ということを考えれば、短期間で効率よく学ぶ姿勢も大切ですが、それだけだと英語学習は点数を取るためだけの味気ない手段に過ぎなくなってしまいます。短期的に見て遠回りな作業や経験が、後から「あれはそういう意味だったんだ!」と気づかされることが多いのも、外国語学習によくある話です。自分の生徒には10年20年のスパンを経てようやく分かる学びの醍醐味も、できるだけ伝えていきたいと考えています。
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