オンライン授業を本格的に始めてから、地元の中高生を教える機会がほとんどありません。遠方の地域の事情にばかり詳しくなるのは、あまりよくない状況だと思っています。近場の生徒も何人かほしかったので、昨年まで大手の家庭教師センターに所属していましたが、田舎の特性なのか、なかなか紹介が回ってこない事情もあり、今年からは自分一本で生徒を探すことにしました。
地元の生徒を得るためには、地元の教育事情について知悉しておく必要があります。私が中高生時代を過ごした時から30年近く経過しており、進学事情もずいぶん異なっているようです。そこで、備忘録もかねて、このブログで大分市内の教育・受験事情をまとめてみることにしました。
1. 上野丘vs舞鶴
30年前は全国各地で行き過ぎた受験環境を緩和する動きが強まり、大分市内でも「合同選抜制度」が実施されていました。90年代に入ると徐々に制度が緩和され始め、大分上野丘高校の地位が復権。市内の県立高校は再び序列化が進む形になりました。現在は事実上次のような難易度になっています。
市内中学校のトップ層:大分上野丘高校
市内中学校の準トップ層:大分舞鶴高校・大分豊府高校
上野丘高校の校内順位と進学実績
進学実績にもその傾向がはっきり現れており、上野丘高校は一学年320人(2024年入試)のところ、毎年、東大・京大は10人~20人、東大京大除く旧帝国大学+東京大・一橋大は50人~100人、医学部医学科は20人~30人が合格しています。なお、医学部進学先の多くは大分大学医学部医学科になるようです。文系理系の違いはありますが、概ね学年50番に入っていれば東大・京大・医学部、100番以内なら九大を狙える位置だといってよさそうです。私の親世代の上野丘はもっとすごかったそうで、九大に100人進学した年もあったとよく聞かされていました。大分県立高校の入試当日点は60点x5科目=300満点です。合格最低点は公開されておらず、また年によって違いもあるでしょうが、中に入ってからのことを考えると、概ね250点/300点(約83%)はとっておきたいですね。
舞鶴高校の校内順位と進学実績
一方の舞鶴高校。元々学業だけでなくスポーツも盛んな学校で、ラグビー部の活躍は全国大会の常連校です。ドラマ「スクール・ウォーズ」でも(学校名は変えられていましたが)出ていましたね。ただ、成績が最上位層の中学生は上野を狙い、2番手層またはトップ層が安全志向で舞鶴という流れは、残念ながら今も崩せていないようです。上野丘と舞鶴は高校受験時の志願倍率も年により違いがあり、2023年は舞鶴が人気でしたが、2024年は上野丘に受験生が集中しました。
舞鶴高校では1997年から県下唯一の理数科が設置されました。2年時に理数科と普通科に分かれるようで、難関大学の進学実績もこの理数科クラスの生徒が主体になっているようです。東大・京大合格者は年に5人前後で、年によってはゼロのこともありました。旧帝国大学+一工は20人~30人で推移しています。理系の場合、理数科のクラスに入れていないと、難関国立大学や医学部の合格は厳しいようです。上野同様、合格最低点は公開されていませんが、2年時に理数科クラスを狙うなら、やはり240点/300点(約80%)はとっておきたいですね。定員は上野丘高校と同じく320人です(2024年入試)。
2.豊府中学→豊府高校という新たなルート
豊府高校は1986年創立の新設校です。府内大橋のたもとに位置しており、交通の便は非常によいです。高校の通学路に豊府高校があり、自転車で毎朝学校の脇を通っていたのですが、女子の制服が垢抜けており、校舎も新しくてきれいだなーと豊府生がうらやましかったです。2007年からは中学校も併設され、県下唯一の公立中高一貫校としても人気があります。中学入試は難易度で大分大学附属中学としのぎを削っています。大半の内部生はそのまま豊府高校へ上がるようですが、せっかくの中高一貫体制をうまく活かし切れていないという声をよく耳にします。カリキュラム表を見ると、内部生は中3時に高校の数Iを先取り学習しているようですが、高2以降は高校入学組と完全に進度が同じになるようです。私が教えている首都圏の公立一貫校では、内部と外部のクラスは最後まで混ざらないそうです。中高一貫教育の強みを活かすなら、完全にカリキュラムを分けてしまった方がよいかもしれませんね。
学校の熱意は感じる
進学指導の点では上野丘や舞鶴と比較すると学校の熱意を感じます。3月29日現在の上野、舞鶴のトップページを比較すると、その点は一目瞭然です。
これら伝統校とは対照的に、豊府高校は3月10日現在の進学実績をトップページに掲げています。
2023年は東大・京大に6人の合格者を出すなど大健闘でしたが、3月10日時点での合格者数を見る限りだと、今年は例年並みのようです。1学年は240人(2024年)定員で、うち120人が内部進学生に当てられているので、内:外≒1:1の割合ですね。豊府生が少なくとも九大以上の大学を目指そうとするなら、中学生は学年20番以内、高校では学年順位30番以内を維持することが必要でしょう。この学校は先取り学習にもっと力を入れれば、まだまだ伸びる余地がありそうです。思い切って高校からの募集をなくしてしまってみてはどうでしょうか。私立進学校では一般的になっている中2の秋から高校数学に入るカリキュラムを採用できれば、豊府は不動の上野丘を脅かす存在にまで人気が集まることでしょう。高校入試では300点満点で200点前後がボーダーラインのようです。
3. 向陽中学→東明高校特進コースはどうか?
2006年から東明高校が復活開設した向陽中学は、大分県の中学受験ではトップを走る学校です。残念ながら向陽中学校の生徒を教えたことがないので、学校の中の事情はよく分からないのですが、おそらく全国区の私立中高一貫校と同じカリキュラムを採用しているのではないかと思われます。
進度の速い私立一貫校の中高生が私の主な指導対象ですが、概ね中2の秋から数IAに入り、中学卒業時点で数IIBを途中まで、理系に進学する場合は高3の1学期で数IIICを終わらせるというのが一般的な進度です。不思議なことに、どの進学校も中2の2学期から高校数学に入る点では共通しています。公立の高校も、なんとか彼らの進度に追いつくために、生徒の理解力をほったらかしにしてでも数IIB後半→数IIICを猛スピードで進めていくのですが、残念ながら頭が真っ白になって落伍する生徒が後を絶ちません。おそらく理系で無理のない数学のカリキュラムにしようとしたら、必然的に中2後半から高校数学に入らないといけないでしょう。
向陽中学は公立中学と比較して、数学・英語・国語の授業時間数が約2倍も多く当てられているのが特徴です。しかし、社会と理科はそこまで多いというわけではありません。社会と理科の進度が普通の公立中学校とあまり変わらないのも全国の私立進学校に共通するところで、本当に不思議ですね(とはいえ、進度は同じでも定期試験の内容は難度が高くなっているはずです)。
1学年は40人前後と少数精鋭で、高校からは系列の東明高校の特進コースに進むようです。高校からも特進コースに入ることができますが、おそらく特進コースの主戦力は下から上がってくる向陽中学の生徒でしょう。ちなみに2024年3月10日現在ですが、学校サイトによると最新の合格実績は東大・阪大・九大12名(うち医学科3名)とのこと。保護者の立場になって考えると、大分県内で大学進学を第一に考えるのであれば、向陽中学→東明特進が最適解になるのではないかと思われます。
4.親御さんの立場になって考えてみる
自分の子供に大学進学を最優先に考えて環境を整えるなら、どういう学校ルートを選択するだろうと考えたとき、選択肢は2つに分けられます。もしも子供が中学受験に耐えられる精神力や忍耐力があるなら、向陽中学→東明特進コースはファーストチョイスになるでしょう。県内から県外の私立中学に進学したご家庭にお話を伺う機会がありましたが、敢えて向陽を狙う必要性が感じられないという声も何度か耳にしました。実際問題として、県内の中学受験生のトップ層は鹿児島のラ・サール中学や福岡の久留米大附設中学、長崎の青雲中、早稲田佐賀中などに流れているようです。県外流出組を引き留めるためには、進学実績+αの要素が今後は必要になってくるでしょう。
自分の子供が何かの学問分野に秀でているものの、明らかに中学受験に気質が向いてない場合は、公立中→上野丘高校が王道ルートになるでしょう。ただ、上野丘では伝統校のプライドがあり、学校行事にも積極的に参加する協調性が求められると聞きます。3年間受験勉強に専念したいなら、東明の特進コースを高校受験で目指しましょう。ただし、下から上がってくる向陽中生に追いつくには、すさまじい学習量が要求されるはずです。自分のペースをそれなりに維持したまま、学校生活もそこそこ楽しみ、勉強にも打ち込みたい場合は、公立中→舞鶴あるいは豊府の進路がお勧めです。私見ですが、大分県に限らず、公立1番手校よりも2番手校の方が学校の中の雰囲気が和やかなように感じます。ただし舞鶴や豊府に進学する場合は、塾や家庭教師などのフォローをつけて先取り学習を進める必要があるでしょう。
以上、大分県の進学事情をまとめてみました。今回ご紹介していない学校についても、また近いうちにまとめる予定です。
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